つややかな黒髪を長くたらした少女

2011.04.13

アテネの冬は柔らかな日射しにあふれていた。お腹の中ののんびりやさんは、予定日を十日も過ぎたというのに、いっこうに出てきてくれる気配を見せない。しびれを切らしたプシホギオス先生の、「明朝七時にいらっしゃい」という陣頭指揮の下、不安いっぱいで出頭したあの十二月の日。どのくらい時間がたったのか、誰かが、まだ麻酔もさめやらぬ私のほおを叩きながら、「コリツァーキ(女の子)!コリツァーキ(女の子)!」と叫んでいるのが聞こえた。再び、疲労と安堵のあとの心地よい眠りに落ちていきながら、なぜか、つややかな黒髪を長くたらした少女の後ろ姿を見たような気がする。娘は日一日と成長し、三ヵ月もたつと花の笑顔をいっぱいに浮かべ、声を立てて笑うようになった。言莱が出るのも、歩き始めるのも早く、初めてのお誕生日には、広いアテネの空港を後ろも振り返らずに歩きまわり、私達がさがしあてた時には、ちゃっかり航空会社のカウンターの内側に入りこんで、ギリシヤ人にだっこされていた。お誕生日のパーティーには十ヵ国の友人達がお祝いにかけつけてくれた。そんな子にも、明らかに他の子より劣っている点があった。髪が薄く、いつまでたってもまともに生えてこない。何ヵ月かあとに生まれた親友の娘が、まだ立ちもしないうちから、髪に赤いリボンなどつけているのを見るにつけ、母親の方は内心気が気ではない。口の悪い友人に「はげ茶びん」などと称されるに至って、私は、哀れな娘の名誉のために、というよりは、愚かな母親の虚栄心のために、彼女に常に帽子をかぶせておくことにした。
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