デュマの時代にエルメスがメディアの注目度を高めた要因の一つに、効果的なメセナ活動(企業による文化支援活動)がある。なかでもエルメスの名を冠した「冠メセナ」である春競馬「ディアンヌ・エルメス杯」は有名だ。これはもともと、1843年にパリ郊外のシャンティイの競馬場で初めて開催された3歳牝馬によるレースで、以後、6月の第2日曜に開催されてきた。貴族社会の社交場としての競馬場を再現したいというデュマの熱意で、1982年からエルメスによる後援が実現している。招待客はシャンティイ駅から徒歩または愛馬で森を抜けて競馬場に至る。馬を駆って来る場合は、馬場を一周できるという特典がつくそうだ。当日の朝、フォーブル・サントノレのエルメス本店前に集合し、アンティーク・カーで乗り付ける人々もいる。この日は男女とも正装で、男性はシルクハット、女性は趣向をこらした大ぶりな帽子をかぶり、毎年決められる「代表国」を意識した装いで参加する(日本もかつて代表国に選ばれた)。女性たちのファッションは世界各国の女性誌の格好の取材対象で、まるで映画祭に出席する女優のように翌月の誌面を賑わせる。ランチボックスの収益金の一部がチャリティとなっていることも好評だ。このイベントが毎年、定期的に各誌で報じられることにより、フランス宮廷社会御用達の馬具工房というエルメスの原点となる「イメージ」に加え文化支援という姿勢を広く一般にアピールすることに成功した。近年、とくにフランスの伝統ある老舗プレミアム・ブランドでは、企業イメージの強妬化あるいはリスクをさほど伴わないイメージーチェンジの手段として、メセナ活動が重要視されている。日本ではさほど知名度が高くないが、カルティエは「カルティエ現代美術財団」を組織し、現代美術の支援につとめている。どちらかというとクラシックなイメージのあるカルティエが、現代美術を支援する財団を設立したこと自体が話題になった。ルイ・ヴィトンはヨットレース「ルイ・ヴィトン・カップ」を「冠メセナ」とすることで、原点である「旅」というコンセプトを強化している。LVMHグループ全体では「文化」と「青少年」を機軸に、ヅエルサイユ宮殿の修復作業や芸術を志す学生のための奨学金プログラムの後援など、フランス文部省とも連動した活動を行なっている。